note | 幻のアサクサノリを探して〜多摩川探訪記〜

かつて、多摩川河口から鶴見川河口にかけて「大師(だいし)海苔 」というたいそう美味しい海苔が採れたそうな。「大師の海」と呼ばれた、それはそれは美しい遠浅の海で海苔の養殖がはじまったのでした。

今から遡ること約150年、多摩川が運んでくる豊富な養分で育った海苔は「大師海苔」と呼ばれ、川崎漁場は「アサクサノリ」の一大生産地として、全国に知れ渡っていきました。
しかし、時代の流れと共に川崎に工業化の波が押し寄せます。
大規模な埋め立て工事によって昭和47年、100年に渡って続いた川崎の海苔養殖は幕を閉じてしまいました。

そして「アサクサノリ」は川崎からいなくなってしまったと誰もが思っていた...はずでした。

これは50年の時を越えて、
今なお多摩川で生き続ける、
アサクサノリのお話。

みなさんこんにちは。今回のテーマは「アサクサノリ」
2019年2月、多摩川で行われた生態調査に同行した内容を中心にお伝えしていきます。
アサクサノリとは?本当に川崎で海苔が採れたの?とご興味のある方、どうぞゆるりとお付き合いください。

【アサクサノリについて】

そもそも「アサクサノリ」とは?
ウシケノリ科アマノリ属に分類される海藻です。
諸説がありますが、浅草寺門前で採れた「アサクサノリ」を和紙の技法「紙漉(かみす)き」で板海苔とした物を「浅草海苔」と呼ぶようになったのがはじまり、とされています。

【アサクサノリについて】

そもそも「アサクサノリ」とは?
ウシケノリ科アマノリ属に分類される海藻です。
諸説がありますが、浅草寺門前で採れた「アサクサノリ」を和紙の技法「紙漉(かみす)き」で板海苔とした物を「浅草海苔」と呼ぶようになったのがはじまり、とされています。

【大師海苔とアサクサノリ】

明治4年(西暦1871年)~昭和47年(西暦1972年)にかけて、「大師の海」で採れた「アサクサノリ」を「大師海苔」と呼んでいたそうです。遠浅の海には貝類も豊富にいて、多摩川が運ぶ豊かな養分に貝類が行う浄水作用が加わり、美味しい海苔が採れたと言われています。

いったいどんな味の海苔だったのか?そして多摩川にはもう「アサクサノリ」はいないのでしょうか??
ここからは研究調査の報告をご覧ください。

注 )この調査は千葉県立中央博物館分館 海の博物館 菊地先生の調査に同行したものです。調査地が国土交通省によって「生態系保持空間」と位置づけられる場所であり、基本的に人の立ち入りについて一定の制限をしている場所です。今回の調査も京浜河川事務所に届出をして行なったものです。
また、調査地がそのような保護された地域となりますので、自然に影響するような活動(生きものの採集等)は極力行なわないようにする必要性があります。個人での調査や採集はどうぞお控えください。

【研究チームに同行】

今回アサクサノリの生態を調べていらっしゃる、千葉県立中央博物館分館 海の博物館 菊地先生を中心とした研究チームに同行させていただきました。厳しい寒さの中、アサクサノリが成長を見せる12~4月の期間、毎年多摩川で生態調査をされています。
メンバーは菊池先生以外に、川崎市の職員の方、大森海苔のふるさと館の方、博物館職員の方を含め総勢8名ほど。私たち以外は経験豊富なプロ集団です。

【葦の根元でアサクサノリを発見!】

多摩川河川敷に広がる葦原(あしはら)の茂み、その根元にアサクサノリは生息しているという。着慣れないつなぎで完全防備し、多摩川のジャングルへいざ出陣!

そんな気合いと裏腹に、最初は全く見つけることができず...
むしろぬかるみに足を取られて前に進めない...片足抜いたら逆足もはまる...
そんな私を尻目に、みなさんはどんどん先へ...
そしてプロ集団があっと言う間に発見!何とか駆けつけると、

本当にいました!!葦の根元で心地よさそうに漂うアサクサノリが!

 

薄い紫色の漂う物体があの「アサクサノリ」です。
そこから奥へ進むほど、どんどん見つかり、コツを掴んだ私も自身で発見できるようになりました。
この気持ちは何でしょう?子供の時にトノサマバッタを空き地で捕まえた!それに近い、懐かしく誇らしい感情でした。

【違うノリも発見!】

続いて「アオノリ」も発見!「アサクサノリ」と「アオノリ」を並べると、その色合いの違いにびっくり!とても鮮やかな緑です。

そもそもアオノリってノリとは違うの?と感じる方もいるはず。
「アオノリ」はアオサ科アオサ属の中で、旧アオノリ属だった種類の総称です。同じ海藻でも「ノリ」と名前に付くだけで、アサクサノリやスサビノリなどの本当のノリのグループとは生物学的にも異なる海藻なのです。

ではここで復習、アオノリとノリが混ざると何という「等級」になるのでしょうか??
忘れた方は前回の内容をぜひ確認して(笑)

またピンク色で小さな「ショウジョウケノリ」も見つけました。ノリという名前が付いた海藻も色々あるのですね。

【他にも生き物がたくさん】

多摩川にはノリ以外にも生き物がたくさん、まずは小さな「ケフサイソガニ」

小さい体で頑張れよと自然に戻しました。

他にも「クロベンケイガニ」、「コメツキガニ」、「アシハラガニ」なども生息していました。特に「アシハラガニ」は腐食連鎖の一員として、干潟の中で重要な役割を担うそうです。腐食連鎖とはわかりやすく言うと死骸などを浄化し新たなエネルギーに変える役割です。生きているものが対象の食物連鎖とはまた違う重要な役割、人間にとっての職業と同じですね。

生き物だけではなく、土手には大根まで!

これは「ハマダイコン」という野生の大根。硬くて辛いため、食用には向かないそうです。
そして「アシタバ」も発見!工場に囲まれながらもみんな必死に生きています。
自然のすごさ、ありがたさを感じる1日となりました。

【アサクサノリを標本へ】

研究チームから特別に譲ってもらったノリを一つ一つ丁寧に拭き取り、その足で西国分寺の「国陽工芸」さんへ向かいました。

目的は「アサクサノリの標本作り」です。
せっかくいただいた希少なアサクサノリ、一人でも多くの方に実物を見せたい!多摩川で頑張って生息していること、色々なノリや生き物がいること、お客様に伝えたい海苔のストーリーがまた増えました。

そして今週、ようやく到着した標本がこちら。

【最後に】

国陽工芸さん、素敵に標本作製していただき本当にありがとうございました。
http://kokuyou46.com/hyohon/

菊地先生はじめ、研究チームのみなさまもサポート本当にありがとうございました。
http://www2.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/

大師海苔の資料は、『川崎マリエン』さんにて撮影させていただきました。ありがとうございました。
https://www.kawasakiport.or.jp/

そして多摩川、小さい頃から慣れ親しんだ場所に、こんな秘密があったとは...感動をありがとうございました。そしてこれからもノリをはじめ生き物たちをどうぞよろしくお願いいたします。

いつの日かまた、アサクサノリが多摩川で養殖できたら良いですね。

ただスサビノリの有明産初摘みも、川崎の元生産者お墨付きの味わいです。私たちは自信を持って店頭に並べておりますので、ぜひ食べくらべてみては。

みなさま、本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


前の記事 次の記事