10月26日午後23時過ぎ。
暗闇に包まれた有明海に1つ、2つと小さな灯が沖へと進んで行く。
丘の上から見ると、まるで海を照らす蛍の光。
小さくゆらゆらと進む灯の正体...?
それは海苔漁師たちの漁船。
そして、
10月27日午前零時、
佐賀エリア、
海苔の種付け解禁。
今回のテーマは『海苔の種付け』。
そもそも海苔の種付けとは?
どんなことをするの?
一般的にあまり知られていませんが、海苔漁師にとってはシーズンの初まりを告げる大切なイベント。
苗や種を畑に植える、の海苔バージョンだと思ってください。
実際に私自身がお手伝いしながら、見て、聴いて、感じたことをお伝えしていきます。
非常にマニアックな内容ですが、ご興味ある方はゆるりとお付き合いください。
内容も濃いため、今回は2回に分けてお届けします。
【お手伝いに行った場所】
佐賀県鹿島市。
佐賀県西部、有明海にも面した非常に緑の豊かな地域です。
塩田川、浜川を中心に、地図上ではわからないような小さな川も10本以上。
海苔以外にもみかんなどの農作物や、日本酒も美味しくて有名な場所です。
その美味しさの秘密は『植林』。
『美味しい海は山から』と30年も前から、九州の中でも先駆けて取り組んでいるんです。
以前の記事で鹿島市の植林について紹介していますので、ご興味ある方は寄り道を。
そして今回、鹿島第一漁場の中島 義彦さんにお世話になりました。
元々は中島さんが合羽橋、ぬま田海苔へ来てくださった事からご縁が繋がっています。
非常にデリケートな作業にも関わらず、快く受け入れてくれた中島さんに感謝。
丘の上から眺めると、塩田川の先に海苔の漁場が見えてきました。
「今夜行くから待ってろよ!」と心の中で叫んでみる。
【海苔の種とは?】
そもそも海苔の種って一体?と思われる方がほとんどかと思います。
この種とは『海苔の胞子が付着した牡蠣殻』のこと。
海苔の赤ちゃんは胞子なんです。
そして海苔の養殖には『牡蠣殻』を使います。
海苔の胞子は暗く涼しい場所を好むため、夏の間は貝殻の中に潜んでいます。
貝殻が持つ、抗菌作用も重要だそう。
そして海水温が下がる秋頃に、胞子が網について芽になるのです。
熊が洞穴で冬眠するなら、海苔は牡蠣殻で夏眠するイメージでしょうか。
『種づくり』から詳しく知りたい方は、ぬま田海苔の『美味しい海苔ができるまで』でまた寄り道を。
【海苔の種付け作業とは?】
海苔の種付け作業とは『海苔の胞子が付着した牡蠣殻』を網に仕込み、海に広げる作業。
2つに分けると、このような流れとなります。
①種付け解禁日前の日中→『海苔の胞子が付着した牡蠣殻』を網に仕込む。
②種付け解禁となる時間→漁船で海に出て、その網を海に広げる。
ボジョレーヌーボー解禁!と同じように海苔にも各漁連が決めた種付け解禁日時があります。
必要な条件は『海水温23°以下』と『大潮』。23°以上だと海水温が高く、涼しいところが好きな種が網につかないから。
そして大潮の最大5mと言われる干満差を利用することで、種が網につきやすいから。
海苔にとってベストな環境で一斉に種を海にまくわけですね。
【種を網に仕込む】
解禁前の大仕事は『海苔網に種を仕込む』こと。
胞子がびっちりと付いた牡蠣殻を、ジップロックのような『落下傘』に入れていきます。
直前に仕込むのは海苔の胞子が乾いてしまうから。
胞子も生き物、鮮度が大切です。
一般的な海苔網のサイズは<横:1.8m 縦:18m>。
1枚の網に仕込む牡蠣殻は約100〜200枚!
それを今回は海苔網28枚分!!
約5,000枚の牡蠣殻を仕込みます!
ちなみに牡蠣殻の枚数は漁師さんによって異なり、中島さんは少し多い方だそうです。
鮮度が大事、でも作業は多い、しかもほぼ手作業!
なので親戚中の老若男女総出でこの作業をお手伝い。
正月のおせちの前に、海苔網をみんなで囲むわけです。
牡蠣殻を網に落としていき、それを1つ1つ落下傘に入れていく。
仕込み上がった網を漁師さんたちが巻いていき、トラックに積み込む。
このオペレーションも毎年の試行錯誤があってこそ。
そして何台ものトラックに積んだ海苔網を漁船に積み込みます。
クレーンを駆使し、細心の注意を払いながら漁船へ。
この時は干潮なので、船も干潟に乗り上げています。
昼過ぎに始まった作業も、終わる頃にはもう夕暮れとなっていました。
テトラポッド越しの山々と夕焼けがとても綺麗でした。
さあ、海に出る準備は整いました。
【宴】
23時過ぎに海に出るからそれまで仮眠...と思いきや宴が始まりました笑
海苔を愛する地元の方達と海苔屋のそれはそれは熱い談義。
ユニフォーム交換のように、お互いの海苔を交換してみたり。
自分たちの好きな海苔の味を語りあってみたり。
そしてお母様たちから次々と出てくる振る舞い&お土産。
今日初めて参加したのに、すごく懐かしい感じ。
心が満潮になるような幸せな時間でした。
10月26日午後21:00。
一旦ゲストハウスへ戻り、幸せの余韻に浸りながらしばしの休息。
これから海に出ると思うと、興奮して眠れません。
そして、
10月26日午後22:30。
漁船へ向かう。
いよいよ出航。
続きはまた後編で。