note | 有明海『海苔の種付け』体験記〜後編〜

毎年11月末に解禁となる海苔漁。海苔のことをもっと知りたいと、佐賀県鹿島市へ鹿島第一漁場の中島さんを訪れ、海苔の種付けを体験させていただくことに。宴を終え、いよいよ夜の海に出港!海苔の種付け体験記の、後編レポートです。

 

 暗闇、轟音、疾風。

いったい今、船上で自分がどれくらいの速さの中に存在しているのか?
顔に突き刺さる風の触感と轟くエンジン音に刺激される聴覚に、
暗闇で見えない視覚だけが一致しない。
確認できるのは船体横の白い波しぶき、だけだった。

 

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「目印が何も見えないから大変ですね。」と真顔で言う私。
「目印なんかなくてもわかりますよ。」と笑いながら言う中島さん。

そうか、漁師さんにとってはここは通い慣れた通勤路。
暗闇だろうがなんだろうが体が覚えている。
だから些細な変化までもすぐに感じ取れてしまうのだろう。
目的地に到着するなり、中島さんの口から出たのは意外な言葉だった。

「沼田さん、予定変更です。」 

有明海『海苔の種付け』体験記。
後編もゆるりとお付き合いください。
前編を見ていない方はこちらから。



【予定変更】

10月27日午前零時、
佐賀エリア、
海苔の種付け解禁。

そして予定通りに漁場に到着。
零時解禁と同時に一気に海に海苔網を広げる...
はずでした。

「沼田さん、申し訳ないんですが今は作業辞めましょう。」

驚く私を尻目に中島さんは続ける。

「水位が1mちょっとしか無い、これでは低すぎるんです。」

その理由はこうでした。
干満差の大きい大潮を狙って行う種付け作業。
零時以降が干潮から満潮に変わるベストなタイミング、と予測されていました。
ただ実際モニターが表す数値は予測以下の水位だったのです。

 

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ではなぜ水位が低過ぎると好ましく無いのか?
有明海は干潟の海。
ムツゴロウ=泥だらけの干潟、が思い浮かぶはずです。

水位が低い環境では海苔の胞子が泥にまみれ網に付きづらい、からだそうです。

 

『網に付きづらい』より『網に付きやすい』時を待つ。

 

作業を早く終えて帰りたいなら、時間通りにやってしまえば良い。
でも漁師さんが考えるのは海苔にとって1%でも2%でも良い選択。
それが常に最優先なんだなあと感じる、とても愛のあるジャッジでした。

「このまま3時くらいまで船上待機するので、みんなで仮眠しましょう。」

目標地点に到着して、いきなりの休息。
とは言いつつも、中島さんと私はそのまま1時間、海苔談義...。
ここぞとばかりに質問した内容もいつか記事にできたら。

午前1時、
船底のエンジンルームにて仮眠をとる。
高さは50cmあるかないかだが、予想以上に暖かく布団まである。
きっとここは船上の VIPルームに違いない。

中島さんの心遣いに感謝。



【作業開始】

午前3時過ぎ、
自然と目が覚めていた。
目覚めのコーヒー代わりにエンジンルームのオイルが香ってくる。
船上に出てみるが、まだ辺りは暗闇のまま。
そこへ既に起きていた中島さんが一言。
「そろそろ作業開始しましょう。」

何も合図していないのに、助手のまさと君もすっと起きてきた。
これが阿吽の呼吸というやつなのだろうか。

ここから満潮で水位がどんどん増していく、
熟練の漁師だからわかるベストなタイミングが来たのだ。

いよいよ作業開始。
ここからの大まかな流れは以下3つ。

1.大型漁船から中型ボートへ海苔網を積み直す
2.中型ボートを使って海苔網を漁場に広げる
3.小型ボートに乗って支柱と海苔網を括り付ける


【海苔網を積み直す】

海苔の胞子が乾かないよう、ブルーシートに覆われていた海苔網たち。
いよいよ出番です。

大型漁船のクレーンを使って、中型ボートへ海苔網を積み直していく。
狭い支柱の間に海苔網を広げるには、適度なパワーと小回りの効く中型ボートがベスト。

中型ボートに海苔網を積んだら、いよいよ漁場に広げていきます。

 

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【海苔網を漁場に広げる】

牡蠣殻落下傘が付いた海苔網を、丁寧に海に放つ。
捩れないように、絡まらないように、ゆっくりと手作業で広げていく。
少しでも異変があればボートを止めて修正。
1枚、また1枚とテンポ良く作業が進む。

 

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私も少し手伝わせてもらいましたが、海苔網が予想よりもはるかに重い。
そしてフックに外したり、引っ掛けたりの単純作業も手につかない。
パワーと細やかさ、両方が求められる事を実感。

28枚、全ての網を海に広げた後、気づけばうっすらと明るくなっていた。
ここからは最後の仕上げ。

 

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【海苔網を支柱に括り付ける】

最後に縦に伸ばした海苔網を、支柱に合わせ横一列で括りつけていきます。
ボートもさらに小型になり、完全に手漕ぎスタイル。

なぜなら海苔網の上を移動する『繊細な作業』となるから。

この作業は「干出」ために必要な作業となります。

 

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有明海では干満差を使って「干出」「海に浸かる」を繰り返していきます。
「干出」(かんしゅつ)とはその字の通り、海苔網を干し出す事。
旨味を熟成させたり、海苔を乾かした時に香りが出やすくするために必要な作業。
有明海の海苔の美味しさの秘密は「干出」にあるのです。

 

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しっかりと支柱に括りつける事で、干潮時には「干出」できるようになるのです。
そして、同じ漁場内でも場所やその時の状況で括りつける高さは変わるとの事。
この一手間もまた、美味しさの理由となるわけです。

気づけばもう朝日が昇っていました。

 

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【仕上げ】

さあ、本当に最後の仕上げです。
それは験担ぎ。

中島さんのお母さんが作った、おはぎ、お赤飯を網の上にお供えします。
「海苔があんこみたいに黒く育ちますように。」

 

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祐徳稲荷神社でお清めしてもらった神酒も海に撒きます。
「どうか今年も美味しい海苔が採れますように。」

海苔網の下はこんな感じでした。

 

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【終了】

午前7時、
海苔の種付け作業、全行程終了。

 

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この時間になると、周りに漁師仲間がいっぱい。
「おーい久しぶりだね。」
と一人の漁師さんが私に声をかけてくれた。
以前東京でお会いした漁師さんに、まさかの有明海で再会!(笑)

 

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そして船着場へと帰る。

長時間海の上にいたせいか、陸に上がっても揺れているような感覚。
これが毎日の漁師さん、本当にすごいなと改めて実感。
やりきった感満載の私に中島さんが優しく言う。

「ここからが本番ですから。」そして、
「網を切り取って顕微鏡で成長を見るのが楽しみです。」と微笑む。

漁師さんにとってはこれがシーズンの始まり。

最後に三人で記念撮影。
笑わない男はここ鹿島漁場にもいました(笑)

 

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【学び】

フォークリフトを使いこなし、
トラックを転がし、
クレーンを自在に操り、
漁船の舵を取り、
海の状態を冷静に分析し、
海苔網を持ち上げ、
ボートを素手で漕ぎまわり、
繊細な手作業もこなす、

自分が目にした海苔漁師の作業量は予想をはるかに超えていた。
正直ここまでやる必要あるの?と思う人もいるかもしれない。

だ美味しい海苔が採れる可能性が1%でも2%でも上がるなら、
それが優先なのです。

『種付けだから』ではなく、おそらく全ての作業とその姿勢で向き合っているのです。

『海苔の種付け作業』を通しての今回一番の学び。
それは海苔と真摯に向き合う漁師さんと、それを支える周りの皆さんの、
『海苔愛の深さ』でした。
海苔のためならとことんやるぞ!という『覚悟の深さ』とも言えます。

この『海苔愛の深さ』をお店で伝えていく事が、
きっと海苔屋である私の役割なんだと思う。



【感謝】

改めて大切な作業にも関わらず、私たちを受け入れてくれた中島さんをはじめ、鹿島漁場の皆さまに感謝。
そして2日間ずっとアテンドしてくれた、漁協鹿島支所の平さんにも。
本当に丁寧に案内してくれました。

 

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また、鹿島の大自然にも!!美味しさの秘密をようやく自分の目で確かめる事ができました。

 

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鹿島漁場の海苔が食べてみたい!という方はぜひこちらをご覧ください↓お歳暮や内祝にも人気の詰め合わせです。

 

もっと詳しく聞きたい!という方はぜひ店舗へ。
お歳暮はもちろん、お年賀なども受け付けております。

 

都政新聞社様発刊「NEWS TOKYO」最新号のトップインタビュー内でも鹿島漁場について少しご紹介させていただきました。良ければぜひ記事もご覧ください。
都政新聞社様、本当にありがとうございました。

 

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今回は二部編成となりましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。


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